このあいだ「死後離婚が増えている」という話題をネットでみて
「死後離婚?なんのこっちゃ?」
と思い調べてみたら、ああ、あれのことね、と合点がいきましたので書いておきます。
(離婚等による姻族関係の終了)
第七百二十八条 姻族関係は、離婚によって終了する。
2 夫婦の一方が死亡した場合において、生存配偶者が姻族関係を終了させる意思を表示したときも、前項と同様とする。
なんのことはない、「死後離婚」とは、この「夫婦の一方が死亡した場合の姻族関係の終了」(民法728条2項)のことでした。
「死後離婚」というぐらいだから、「熟年離婚」の先、夫婦のどちらかが亡くなった後に離婚する手続き?と思いがちですが、そもそも夫婦が亡くなった後の離婚というのはありえません(なのでその俗称はどうかと思うけど・・・)。
この「姻族関係の終了」手続きとは、夫婦のどちらかが亡くなった後に、姻族関係、つまり婚姻によってできた親族関係を終了させる手続きのことです。
要は、義父・義母・義兄弟姉妹等との法的な関係をバッサリ切る手続き。
手続きは、役所に「姻族関係終了届」というペーパーを提出すれば終わりで、その旨が戸籍に記載されます(なんとも簡単ですが、一度出すと取り消せないので軽々には出さないように)。
バッサリ切ると何がいいかというと、万一のときに亡夫(妻)の親族に対する法律上の扶養義務や扶助義務を負わなくてよくなるという点。
(扶養義務者)
第八百七十七条 直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。
2 家庭裁判所は、特別の事情があるときは、前項に規定する場合のほか、三親等内の親族間においても扶養の義務を負わせることができる。
3 前項の規定による審判があった後事情に変更を生じたときは、家庭裁判所は、その審判を取り消すことができる。
(扶養の順位)
第八百七十八条 扶養をする義務のある者が数人ある場合において、扶養をすべき者の順序について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、これを定める。扶養を受ける権利のある者が数人ある場合において、扶養義務者の資力がその全員を扶養するのに足りないときの扶養を受けるべき者の順序についても、同様とする
(親族間の扶たすけ合い)
第七百三十条 直系血族及び同居の親族は、互いに扶たすけ合わなければならない
※太字筆者
※親等・親族についてはこちらのページも参照してみてください
人道的な観点はさておき、法律的には、今後義父母や義兄弟姉妹らの生活を助けたり、介護したりする義務からは完全に解放されます。
また、熟年離婚と違って、姻族関係を終了させたからといって亡くなった配偶者との関係が変わるわけではないので、亡夫(妻)の遺産相続もできるし、遺族年金を貰うこともできます。もちろん姓が変わることもありません。
なので、もし、配偶者には特に不満はないけど、配偶者の親族との付き合いが我慢できずに熟年離婚を考えている、という人がいたら、もうちょっと待ってみたほうがいいかもしれません(笑)
ただ、自分がバッサリいっても、子どもと義父母たちとの血族関係は変わらないので、子どもにとっちゃ相変わらずおじいちゃんおばあちゃんですし、おっちゃんおばちゃんです。姻族関係を終了させるときはそこんとこもよく考えて。
死後離婚は増えている?
ちなみに、ネットの記事では「死後離婚が増えている」とあったので、実際そうなのか総務省の統計サイトで調べてみたところ・・・
法務省戸籍統計より筆者作成
10年前に比べるとやっぱり増えてるみたいです。
(2016〜18年に一気に増えたのは、NHKが特集したりしてバズったからだそうです)
この年間届出数3000という数字が多いか少ないかはよくわかりませんが、年間の離婚数が18万組だとか、熟年離婚が4万組近いだとかの数字に比べるとそれほど多くはない印象。
やはり、よっぽどな事情がない限り、姻族関係の継続が自分の生活に影響することはないということでしょうかね。
例えば、先ほどの親戚づきあいが我慢できない場合とか、嫁姑関係がこじれてる場合とか、義父母の介護で生活が破綻しそうな場合とか、夫の親族の墓に入りたくない場合とか。
あとは、配偶者と死別した後に再婚する場合、旧姻族関係は自動的には終了しないので、それを終了させる場合とかですか(このパターンは少ないかな?)。
今日の終活
姻族関係の終了手続き(死後離婚)については一時期テレビでもよくやってたらしいですが(知らなかった)、一般的にはあまり使うことのない制度だと思います。
ただ、終活の一環として、いざ亡夫(妻)の親族となにかあったときはこの伝家の宝刀がある、という知識を持っとくだけでも、心穏やかに親族と付き合えそうですね。
その意味では知っておいて損はないかと思います(*^^*)